「迷路荘の怪人(1956年版)」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿018c

事件が起きそうな予感が盛りだくさん

「迷路荘の怪人」(横溝正史)
(「金田一耕助の帰還」)光文社文庫

「金田一耕助の帰還」光文社文庫

近々ホテルとして
営業を開始する名琅荘は、
かつて持ち主が
暗殺を恐れて拵えた抜け道や
どんでん返しなどが多数存在する
いわく付きの建物だった。
招かれた金田一が
現当主・篠崎慎吾と
歓談しているとき、
突如として殺人事件が…。

1956年に雑誌発表された、
横溝正史金田一耕助シリーズ
一作品です。
しかし長篇「迷路荘の惨劇」
原形作品であるがゆえ、
角川文庫には収録されず、
1996年になって
単行本「金田一耕助の帰還」に収められ、
再び陽の目を見た作品です。
冒頭からおどろおどろしく、
何か事件が起きそうな予感が
盛りだくさんです。

【事件簿File-018c「迷路荘の怪人」】
〔事件発生〕
昭和25年秋(静岡県)
〔依頼人〕
篠崎慎吾
…名琅荘を譲り受けた敏腕実業家。
※依頼の内容は甲野信也の調査・捜索
〔捜査関係者〕
※警察が捜査しているが、
 名前を与えられた警察官がいない上、
 筋書きの前面に出ていない。
〔事件関係者〕
古館種人
…明治の権臣。伯爵。
 富士の裾野に名琅荘を建立。
古館一彦
…種人の嫡子。妻の浮気を疑い
 凶行に走るが斬殺される。
古館加奈子
…一彦の美しい後妻。
 一彦により斬殺される。
古館辰人
…一彦と先妻の間に生まれた息子。
篠崎倭文子
…辰人と離別し、慎吾の妻となる。
 華族の末裔。
篠崎朋子
…慎吾の先妻の娘。
絲女
…種人の愛妾で才女。
 名琅荘を取り仕切る老女。
奥村恭助…慎吾の秘書。
緒方静馬
…加奈子の遠縁。
 一彦に左腕を切断され行方不明。
甲野信也
…名琅荘に現れた左腕の無い男。
 密室から姿を消す。
タマ子
…名琅荘の女中。
 甲野信也に応対した。
天坊為時
…元子爵。辰人の母方の叔父。
柳町善衛
…元子爵。加奈子の実弟。

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本作品の味わいどころ①
事件を予感させる、奇怪な舞台

名琅荘、変じて「迷路荘」。
「どんでん返しや抜け穴たくさんの
秘密設計」に加えて、
「廊下から廊下へとつながる
「長局の構造」
(長い一棟の中をいくつもの局、
つまり女房の部屋に仕切った構造)、
まともな建築物ではありません。
しかもそれを造ったのは
かつての大権力者。
引き継いだのは
放蕩の末に零落した二代目。
さらに現在は戦後成金が所有するという
胡散臭さ漂う背景です。
何か起きないはずはありません。

本作品の味わいどころ②
事件を予感させる、過去の惨劇

しかもそこでは二十年前、
当主・一彦が妻・加奈子を殺害、
緒方静馬をも斬り殺そうとしたものの
逆に斬殺され、
静馬は片腕を失いながら逃走という
惨劇が演じられた舞台でもあるのです。
折しも片腕のない男・甲野信也が現れ、
名琅荘の一室で姿を消すなど、
冒頭から妖しい雰囲気が
いやが上にも盛り上がります。
これでは絶対
何かが起こるに違いありません。

本作品の味わいどころ③
事件を予感させる、愛憎の縺れ

さらには
よせばいいのに現当主・慎吾は、
妻・倭文子の元夫で
かつての名琅荘の持ち主・辰人を
招いているのですから、
不安は膨らみます。
そもそも二十年前の惨劇も、
一彦が妻・加奈子と緒方との
不貞を疑ったことから起きたもの、
またしても男女の
三角関係が持ち出されるのです。
予感は現実となり、
やはり事件は勃発します。

と、読みどころは豊富なのですが、
惜しいことに短篇作品であり、
冒頭のくどいまでの
おどろおどろしさの演出に比して、
事件発生後の展開は足早すぎて
物足りなさを感じてしまいます。
おそらく横溝は
自らの構想の骨格部分のみを
雑誌掲載の分量と締め切りを勘案して、
作品の頁数を調整したのではないかと
思われます。
読み手が感じる「不足感」は、
作者が最も感じていた
ことなのでしょう、
本作品は1959年に
中篇版「迷路荘の怪人」として改稿され、
さらに1975年、
大長編「迷路荘の惨劇」として
生まれ変わります。
どう改稿されたのか?
ぜひ読んで確かめてください。

〔本書収録作品一覧〕
※すべて原形作品
毒の矢
トランプ台上の首
貸しボート十三号
支那扇の女
壺の中の女 「壺中美人」原形
渦の中の女 「白と黒」原形
扉の中の女 「扉の影の女」原形
迷路荘の怪人 「迷路荘の惨劇」原形

〔「迷路荘」収録書籍〕
・中篇「迷路荘の怪人(1959年版)」を
 収録しているのは
 出版芸術社の下記の一冊です。

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・長篇「迷路荘の惨劇」は
 角川文庫に収められています。

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